「えらいね」「すごい、がんばってるね」
勉強している子に、つい声をかけたくなります。励ましたい気持ちから出る、自然な言葉です。ただ、同じ言葉でも、子どもによって受け取り方が違うと感じたことはありませんか。素直に喜ぶ子もいれば、少し固くなる子もいます。
この記事では、心理学の研究から、 声掛けの「内容」より「伝わり方」で差が出る という点を整理します。そのうえで、今日から使える言い換えの例を紹介します。研究の多くは子どもや学生を対象にしたものなので、限界についても最後に触れます。
前提|内発的動機と外発的動機
声掛けの話に入る前に、「やる気」の種類を整理しておきます。
| 内発的動機 | 外発的動機 | |
|---|---|---|
| 意味 | やること自体が面白い、わかるようになるのがうれしい、という 内側からの理由 | ごほうび、評価、叱られないため、期限など 外側からの理由 |
| 例 | 英語の長文が読めるようになるのが楽しいから読む | 親に言われたから、ごほうびがあるから、テストがあるからやる |
| メリット | 外からの働きかけがなくても続きやすい。難しくなっても粘りやすい | まだ興味がない課題でも、取りかかるきっかけになる。短期間で動きやすい |
| デメリット | 興味が持てない内容では生まれにくい。外から作りにくい | ごほうびや見張りがなくなると止まりやすい。「やらされている感覚」が出やすい |
どちらかが良くて、どちらかが悪い、という話ではありません。勉強には、最初から面白いとは言えない内容も多くあります。そのため、外発的な理由がきっかけになること自体は自然です。
ただし、 長く続けていく場面では、内発的な理由が土台にあるほうが、ごほうびや声掛けがなくなっても続けやすい と考えられています。
そう考えると、流れは次のようになります。
- 最初:外発的なきっかけ(宿題、テスト、ごほうび、声掛け)で取りかかる。これは自然なことです。
- 途中から:「やらされている」から、「自分にとって意味がある」「自分で選んでいる」へ、少しずつ移していく。
- その先:声掛けやごほうびがなくても、自分から机に向かえる。
大切なのは、2番目を 本人任せにしない ことです。自己決定理論を提唱したデシとライアンは、外からの理由が本人の中に取り込まれていくかどうかは、周りの関わり方によって変わると整理しています。具体的には、次の3つが満たされているほど、取り込まれやすいとされています。
- 自律性: 自分で選んでいる感覚
- 有能感: 力がついている、積み上がっている実感
- 関係性: 見守られている、つながっている感覚
つまり、親や先生ができることは、勉強を「させる」ことよりも、 この3つを支える関わり方に変えていく ことです。なかでも毎日の 声掛け は、特別な準備がなくても、毎日くり返せる関わりです。
ここからは、声掛けがこの3つを支えるのか、逆に弱めてしまうのかを、研究をもとに整理します。
分かれ目は、2つの軸
声掛けの効果を分けるポイントは、次の2つに整理できます。
① 伝え方:情報として伝えるか、相手を動かすために使うか
| 良い方向:情報として伝える | 注意したい方向:相手を動かすために使う | |
|---|---|---|
| 考え方 | 「ここまで積み上がっている」と、状況を伝える | 「続けなさいよ」の気持ちが言葉の裏に透ける |
| 例1 | 「今週は5日、机に向かったね」 | 「この調子で、毎日続けなさいよ」 |
| 例2 | 「先月より、解ける問題が増えているね」 | 「せっかく続いているんだから、休んじゃだめだよ」 |
| 例3 | 「ノート、ここまで進んだんだね」 | 「えらいね。明日もやってね」 |
右側の言葉は、褒めているようでも、最後に「だから、こうしてほしい」という期待がついています。左側は、事実を伝えるだけで、次にどうするかは本人に任せています。
② 何を取り上げるか:行動・やり方か、能力・人そのものか
| 良い方向:行動・やり方 | 注意したい方向:能力・人そのもの | |
|---|---|---|
| 考え方 | 本人が 次に変えられる部分 を取り上げる | 変えにくい 能力や性格 を取り上げる |
| 例1 | 「毎朝、机に向かっているんだね」 | 「頭がいいね」 |
| 例2 | 「間違えた問題を、やり直しノートにまとめたんだね」 | 「才能があるね」 |
| 例3 | 「難しい問題を、図にして考えていたね」 | 「勉強ができる子だね」 |
右側は、うまくいったときはうれしい言葉です。ただ、うまくいかなかったときに「自分にはその能力がないのかも」と受け止めやすくなります。左側は、うまくいかなかったときも「やり方を変えてみよう」と次の一手につながります。
それぞれの違いは、なぜ生まれるのか
2つの違いが生まれる理由を、一言でまとめると次のとおりです。
- 軸①: 情報として伝えると、本人が「自分の状態」を知る材料になります。相手を動かすための言葉だと、「自分で選んでいる」というより「動かされている」と感じやすく、内発的動機が弱まる可能性があります。
- 軸②: 行動ややり方は、本人が 次に変えられる部分 です。能力そのものを取り上げると、うまくいかなかったときに「自分には能力がないのかも」と受け止めやすくなります。
「褒める」「褒めない」の二択ではなく、この2軸のどこに寄せるか、という見方です。以降で、それぞれの根拠となる研究を見ていきます。
軸①|情報として伝えるか、コントロールとして伝えるか
デシ、コエストナー、ライアンは、1999年に128件の実験をまとめたメタ分析(複数の研究を統合して傾向を見る方法)を発表しました。
- お金や景品などの 物の報酬(とくに、あらかじめ約束された報酬)は、内発的動機(やること自体が面白くて続ける気持ち)を 下げる 傾向がありました。子どもでは、大学生より下がり方が大きい傾向もありました。
- 一方、 言葉によるポジティブなフィードバック は、全体では内発的動機を 高める 傾向がありました。
- ただし、この効果は 大学生で大きく、子どもでは小さい 傾向でした。同じ著者らによる2001年の整理では、小学生などを対象にした研究(7件)では、はっきりした効果は確認されていません。
さらに、同じ著者らの2001年の論文では、 伝え方の違い を調べた5件の研究を追加で分析しています。
- 情報的に伝えた 言葉のほめは、内発的動機を 高めました。
- 統制的に伝えた(相手をコントロールする形で伝えた)言葉のほめは、内発的動機を 下げました。
この比較は5件と少ない研究にもとづくので、「そういう傾向が示されている」くらいに受け止めるのが安全です。
まとめると、 褒めること自体が悪いわけではありません 。ただし、子どもでは「言葉で内発的動機が高まる」と言い切れる状況ではありません。そのうえで、「相手に動いてもらうための手段」として伝わると、下げる可能性があります。だからこそ、 どう伝わるか に気を配る意味がある、と考えられます(ここは筆者の解釈です)。
なぜ、伝え方で結果が分かれるのか
研究者たちは、次のように説明しています(解釈の部分を含みます)。
- 情報的な伝え方 は、「ここまで積み上がっている」「ここができるようになった」と、本人の状態を映す鏡になります。自分の成長を実感できるので、有能感が支えられます。
- 「今週は5日、机に向かったね」
- 「先月より、解ける問題が増えているね」
- 「ノート、ここまで進んだんだね」
- 統制的な伝え方 は、「こうしてほしい」「続けなさい」という意図が透けます。すると、本人は「自分で選んでやっている」より「動かされている」と感じます。自律性が弱まり、勉強する理由が内側から外側へ移りやすくなります。
- 「この調子で、毎日続けなさいよ」
- 「せっかく続いているんだから、休んじゃだめだよ」
- 「えらいね。明日もやってね」
内発的動機が下がると何が困るかというと、 声掛けやごほうびがなくなったときに、自分から続ける力が弱くなる ことです。長く続けてほしい習慣では、ここが大切になります。ただし、「内発的動機が高いほど良い」と単純に言える話でもなく、先ほど書いたとおり、外発的な理由がきっかけとして働く場面もあります。
3つの欲求を支える声掛けの例
先ほどの3つの欲求(自律性・有能感・関係性)を支える声掛けを、3つずつ挙げます。
- 自律性(自分で選んで動いている感覚)を支える
- 「今日は何から始めてみる?」
- 「この宿題、どの順番でやってみる?」
- 「やる時間は、朝と夜のどちらが合いそう?」
- 有能感(力がついている、積み上がっている実感)を支える
- 「今日の分、ちゃんと積み上がってるね」
- 「先週より、読むのが速くなってるね」
- 「前は解けなかった問題が、解けるようになってるね」
- 関係性(見守られている、つながっている感覚)を支える
- 「今日も取り組んでいること、ちゃんと気づいてるよ」
- 「わからないところがあったら、一緒に見よう」
- 「今日はどんな問題をやったのか、聞かせて」
どの例も、 事実や状況を伝える か、 本人に選んでもらう か、 寄り添う かのどれかになっています。「こうしてほしい」という期待は入れていません。
軸②|能力ではなく、行動ややり方を取り上げる
ミューラーとドゥエックは、1998年に小学5年生(10〜12歳)を対象に6つの実験を行いました。課題に成功したときに 知能 を褒められた子は、 努力 を褒められた子より、その後に失敗したときの粘りや課題の楽しさが下がりやすく、失敗を「能力が低いから」と考える傾向も強くなりました。
カミンズとドゥエックの1999年の研究(5〜6歳の子どもが対象。ロールプレイの課題を使った実験)でも、 人や特性への評価 は、 過程への評価 より、うまくいかなかったときに「自分はだめだ」と受け止める「無力な」反応が多くなりました。叱られた場合だけでなく、 ほめ言葉でも その傾向がありました。
ここでいう「過程」には、努力、やり方の工夫、続けていることなどが含まれます。
なぜ、能力を取り上げると注意が必要なのか
ドゥエックらは、次のように考えています(解釈の部分を含みます)。
- 能力を褒められる と、「うまくいくのは自分の能力があるから」と結びつけて受け止めやすくなります。すると、うまくいかなかったときに「能力がないのかも」と感じやすくなり、難しい課題を避けたり、失敗で気持ちが崩れたりしやすくなります。
- 行動ややり方を取り上げられる と、「うまくいかなかったのは、やり方や量を変えられる部分」と受け止めやすくなります。次に何をすればいいかが見えるので、失敗しても続けやすくなります。
能力を褒めること自体が悪いわけではありません。ただ、勉強は失敗や行き詰まりがつきものなので、 失敗したときにも支えになる言葉かどうか という観点で、取り上げる対象を選ぶとよさそうです。
| 能力・人そのもの | 行動・やり方 |
|---|---|
| 「頭いいね」 | 「間違えた問題を、やり直しノートにまとめたんだね」 |
| 「才能あるね」 | 「毎朝、机に向かっているんだね」 |
| 「さすが」 | 「昨日より、解き方が整理されてきたね」 |
アイデンティティの考え方(Atomic Habits)
ジェームズ・クリアーは著書『Atomic Habits』で、習慣を続けるには「何を達成するか」より「どんな人になるか」を軸にするとよい、と書いています。たとえば、「勉強をやらなきゃ」より「自分は毎日勉強する人だ」という感覚です。
これは著書の考え方で、実験で検証された心理学理論というより、実践のヒントとして紹介されています。この点は区別しておきたいところです。
ここで気をつけたいのは、 この「自分は〇〇する人だ」は、本人が自分で感じるもの だということです。周りの大人が「あなたは〇〇な子だ」と決めて伝えると、先ほどの「人や特性への評価」に近づいてしまいます。
そこで声掛けでは、 人にラベルを貼らず、行動の積み重ねをそのまま伝える 形がおすすめです。そこから「自分は毎朝やる人なんだ」と感じるかどうかは、本人に任せます。
- 「毎朝、机に向かうのが習慣になってきたね」(行動を伝えている)
- 「朝に強い子だね」(人にラベルを貼っている)
言い換えの例
| 場面 | よくある言い方 | 言い換え例 |
|---|---|---|
| 毎日の勉強 | 「えらいね、がんばってるね」 | 「今日もやったんだね」 |
| 続いているとき | 「すごい、続いてる!」 | 「今日の分、ちゃんと積み上がってるね」 |
| 気持ちが落ちているとき | 「もっとがんばろう」 | 「今日は何から始める?」 |
| 長く続いたとき | 「さすが!」 | 「毎朝やるのが習慣になってきたね」 |
限界と、試し方
- ここで紹介した実験の多くは、5〜6歳の子ども、小学生、大学生が対象です。中高生や社会人にそのまま当てはまるとは限りません。
- 情報的に伝えた場合と統制的に伝えた場合の比較は、5件の研究にもとづくもので、数が多くありません。
- 努力や過程を取り上げる考え方(成長マインドセット)の効果は、研究全体で見ると平均的に小さいという分析もあり、効果の大きさには議論があります。
- 声掛けの工夫が、長期の学習習慣にどれだけ影響するかを直接示した研究は、多くありません。
- 受け取り方には個人差があります。同じ言葉でも、うれしい子もいれば、重く感じる子もいます。
まとめ|勉強の声掛け 5つのポイント
- 外発的なきっかけは、あっていい。 最初は宿題やテスト、声掛けで取りかかるのが自然です。大切なのは、そこから「自分にとって意味がある」「自分で選んでいる」へ移っていく関わり方を意識することです。
- 「情報として伝える」。 「今週は5日、机に向かったね」のように、事実や状況を伝えます。「続けなさい」「明日もやってね」のような期待は、言葉に乗せません。
- 取り上げるのは「行動・やり方」。 「頭がいいね」ではなく、「間違えた問題を、やり直しノートにまとめたんだね」のように、本人が次に変えられる部分を伝えます。人にラベルを貼らず、積み重ねをそのまま伝えます。
- 3つの欲求のどれかを支える。 自律性(「今日は何から始めてみる?」)、有能感(「先週より、読むのが速くなってるね」)、関係性(「わからないところがあったら、一緒に見よう」)のどれかになっていれば、声掛けは内発的動機を支える方向に向かいます。
- 試して、反応を見る。 受け取り方には個人差があります。1つだけ言い換えてみて、相手の様子を見ながら、合う言い方を探します。
声掛けの前に、次の3つを自分に聞いてみるのも1つの方法です。
| 自分への問い | 「はい」なら |
|---|---|
| 事実や状況を、そのまま伝えているか | 情報として届きやすい |
| 本人が次に変えられることを、取り上げているか | 失敗したときにも支えになる |
| 本人が選ぶ余地が、残っているか | 「やらされている」感覚が出にくい |
3つとも「はい」になる言葉を、毎日1回だけ選んでみる。そこから始めてみてください。
おすすめ声掛けリスト
場面ごとに、3つずつまとめました。そのまま使っても、自分の言葉に言い換えても大丈夫です。
勉強を始めるとき(自分で選ぶ感覚を支える)
- 「今日は何から始めてみる?」
- 「この宿題、どの順番でやってみる?」
- 「やる時間は、朝と夜のどちらが合いそう?」
取り組んでいるとき(行動・やり方を伝える)
- 「間違えた問題を、やり直しノートにまとめたんだね」
- 「難しい問題を、図にして考えていたね」
- 「毎朝、机に向かっているんだね」
力がついてきたとき(積み上がりを伝える)
- 「今日の分、ちゃんと積み上がってるね」
- 「先週より、読むのが速くなってるね」
- 「前は解けなかった問題が、解けるようになってるね」
続いているとき(事実をそのまま伝える)
- 「今週は5日、机に向かったね」
- 「毎朝、机に向かうのが習慣になってきたね」
- 「ノート、ここまで進んだんだね」
うまくいかなかったとき(次の一手を一緒に考える)
- 「ここで引っかかったんだね。どこまでは進めた?」
- 「やり方を変えるなら、何から試してみる?」
- 「間違えたところが見つかったのは、次につながるね」
気持ちが落ちているとき(寄り添う)
- 「しんどい日もあるよね。できそうなところからで大丈夫だよ」
- 「わからないところがあったら、一緒に見よう」
- 「今日はどんな問題をやったのか、聞かせて」
間があいて、再開したとき(これまでの積み重ねを伝える)
- 「今日、再開したんだね。どこから始める?」
- 「間があいても、前にやった分は積み上がったままだよ」
- 「今日の1ページも、ちゃんと進んだ分だよ」
避けたい声掛け(期待が透ける・人にラベルを貼る)
- 「この調子で、毎日続けなさいよ」
- 「せっかく続いているんだから、休んじゃだめだよ」
- 「えらいね。明日もやってね」
- 「頭がいいね」「才能があるね」「勉強ができる子だね」
自分の言葉に言い換えるときは、上の「3つの問い」を目安にしてみてください。まずは1つだけ試して、相手の反応を見ながら、合う言い方を探していきます。
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参考文献
- Deci, E. L., Koestner, R., & Ryan, R. M. (1999). A meta-analytic review of experiments examining the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation. Psychological Bulletin, 125(6), 627–668.
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- Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist, 55(1), 68–78.
- Sisk, V. F., Burgoyne, A. P., Sun, J., Butler, J. L., & Macnamara, B. N. (2018). To what extent and under which circumstances are growth mind-sets important to academic achievement? Two meta-analyses. Psychological Science, 29(4), 549–571.
- Clear, J. (2018). Atomic Habits. Avery.