- 【問題】
原点Oと3点 $\mathrm{P}(1, 2, 1)$, $\mathrm{Q}(2, 1, 2)$, $\mathrm{R}(1, -2, 3)$ について, $|x\vec{\mathrm{OP}}+y\vec{\mathrm{OQ}}+\vec{\mathrm{OR}}|$ の最小値と, そのときの実数 $x$, $y$ の値を求めよ。
この問題、まずは自分の力で解いてみましょう。ベクトルの大きさの最小値に関する典型的な問題です。計算量が多くなりがちなので、丁寧に計算を進めていくことが大切ですよ。
いまから解説します。 ちゃんと自分の力で解いてみましたか?
- 【解説】
こんにちは、スマスク数学講師です。
今回は、空間ベクトルの大きさとその最小値に関する問題を解説します。 この問題は、ベクトルの成分計算と、2次関数の最大・最小(平方完成)を組み合わせた、非常に実戦的な問題です。
多くの受験生が、計算の途中でミスをしてしまったり、変数が2つ($x$ と $y$)あることで混乱してしまったりするポイントでもあります。
「ベクトルの大きさの最小値」を問われたら、まずは**「大きさを2乗して考える」**というのが鉄則です。なぜなら、ベクトルの大きさ $|\vec{a}|$ はルート($\sqrt{}$)がつきますが、2乗すればルートが外れて、扱いやすい多項式の形になるからです。
では、実際に計算を進めながら、どのように解いていくのか見ていきましょう。
1. ベクトルの成分表示
まず、与えられたベクトル $x\vec{\mathrm{OP}}+y\vec{\mathrm{OQ}}+\vec{\mathrm{OR}}$ を成分で表しましょう。 点P, Q, Rの座標がそのまま位置ベクトル $\vec{\mathrm{OP}}, \vec{\mathrm{OQ}}, \vec{\mathrm{OR}}$ の成分になります。
$$ \vec{\mathrm{OP}} = (1, 2, 1) $$$$ \vec{\mathrm{OQ}} = (2, 1, 2) $$$$ \vec{\mathrm{OR}} = (1, -2, 3) $$これらを代入して計算します。
$$x\vec{\mathrm{OP}}+y\vec{\mathrm{OQ}}+\vec{\mathrm{OR}} = x(1, 2, 1) + y(2, 1, 2) + (1, -2, 3) $$各成分($x$成分, $y$成分, $z$成分)ごとに計算します。
$$ = (x + 2y + 1, \ 2x + y – 2, \ x + 2y + 3) $$これで、目的のベクトルの成分が求まりました。
2. ベクトルの大きさの2乗を計算する
次に、このベクトルの大きさの2乗を計算します。 ベクトル $\vec{a} = (a_1, a_2, a_3)$ の大きさの2乗は $|\vec{a}|^2 = a_1^2 + a_2^2 + a_3^2$ でしたね。
$$|x\vec{\mathrm{OP}}+y\vec{\mathrm{OQ}}+\vec{\mathrm{OR}}|^2 = (x + 2y + 1)^2 + (2x + y – 2)^2 + (x + 2y + 3)^2 $$ここから、それぞれの項を展開していきます。3つの項の2乗の公式 $(a+b+c)^2 = a^2+b^2+c^2+2ab+2bc+2ca$ を使っても良いですが、ここでは少し工夫して計算してみましょう。 第1項と第3項に注目すると、$(x+2y)$ という共通部分があります。これをひとまとまりと見て展開すると計算が楽になります。
$$ (x + 2y + 1)^2 = {(x+2y) + 1}^2 = (x+2y)^2 + 2(x+2y) + 1 $$$$ (x + 2y + 3)^2 = {(x+2y) + 3}^2 = (x+2y)^2 + 6(x+2y) + 9 $$第2項はそのまま展開します。
$$(2x + y – 2)^2 = 4x^2 + y^2 + 4 + 4xy – 4y – 8x $$これらをすべて足し合わせます。
$$ |x\vec{\mathrm{OP}}+y\vec{\mathrm{OQ}}+\vec{\mathrm{OR}}|^2 $$$$ = \{(x+2y)^2 + 2(x+2y) + 1\} + (4x^2 + y^2 + 4xy – 8x – 4y + 4) + {(x+2y)^2 + 6(x+2y) + 9} $$$(x+2y)^2$ を展開し、同類項をまとめます。
$$= (x^2+4xy+4y^2) + (2x+4y) + 1 + 4x^2 + y^2 + 4xy – 8x – 4y + 4 + (x^2+4xy+4y^2) + (6x+12y) + 9 $$$x^2$ の項:$x^2 + 4x^2 + x^2 = 6x^2$ $y^2$ の項:$4y^2 + y^2 + 4y^2 = 9y^2$ $xy$ の項:$4xy + 4xy + 4xy = 12xy$ $x$ の項:$2x – 8x + 6x = 0$ (消えました!) $y$ の項:$4y – 4y + 12y = 12y$ 定数項:$1 + 4 + 9 = 14$
これらをまとめると、
$$ = 6x^2 + 9y^2 + 12xy + 12y + 14 $$となります。
3. 平方完成を用いて最小値を求める
得られた式は $x$ と $y$ の2次式です。この式の最小値を求めるために、平方完成を行います。変数が2つあるので、まずはどちらか一方の文字(ここでは $x$)に注目して整理し、平方完成します。
$x$ についての降べきの順に整理します。
$$ = 6x^2 + 12xy + 9y^2 + 12y + 14 $$
$x$ を含む項 $6x^2 + 12xy$ を $6$ でくくります。
$$ = 6(x^2 + 2xy) + 9y^2 + 12y + 14 $$
カッコの中を平方完成します。$x^2 + 2xy = (x+y)^2 – y^2$ と変形できますね。
$$ = 6\{(x+y)^2 – y^2\} + 9y^2 + 12y + 14 $$
$$ = 6(x+y)^2 – 6y^2 + 9y^2 + 12y + 14 $$
$$ = 6(x+y)^2 + 3y^2 + 12y + 14 $$
次に、残った $y$ の部分 $3y^2 + 12y + 14$ についても平方完成します。
$$ = 6(x+y)^2 + 3(y^2 + 4y) + 14 $$
$$ = 6(x+y)^2 + 3{(y+2)^2 – 4} + 14 $$
$$ = 6(x+y)^2 + 3(y+2)^2 – 12 + 14 $$
$$ = 6(x+y)^2 + 3(y+2)^2 + 2 $$
これで、式が「(実数)$^2$ + (実数)$^2$ + 定数」の形になりました。 実数の2乗は必ず0以上($A^2 \geqq 0$)なので、この式が最小になるのは、2乗の部分が両方とも0になるときです。
つまり、
$$ x+y = 0 \quad \text{かつ} \quad y+2 = 0 $$
のときです。 $y+2=0$ より $y=-2$。 これを $x+y=0$ に代入して $x+(-2)=0$ より $x=2$。
よって、$x=2, y=-2$ のとき、ベクトルの大きさの2乗は最小値 $2$ をとります。
求めたいのはベクトルの大きさ(2乗する前の値)の最小値なので、最後にルートをつけます。
$$ \sqrt{2} $$
これが求める最小値です。
- 【解答】
$$x\vec{\mathrm{OP}}+y\vec{\mathrm{OQ}}+\vec{\mathrm{OR}} = x(1, 2, 1) + y(2, 1, 2) + (1, -2, 3) $$$$ = (x+2y+1, \ 2x+y-2, \ x+2y+3) $$したがって
$$ |x\vec{\mathrm{OP}}+y\vec{\mathrm{OQ}}+\vec{\mathrm{OR}}|^2 = (x+2y+1)^2 + (2x+y-2)^2 + (x+2y+3)^2 $$$$ = (x^2+4y^2+1+4xy+4y+2x) + (4x^2+y^2+4+4xy-4y-8x) + (x^2+4y^2+9+4xy+12y+6x) $$$$ = 6x^2 + 12xy + 9y^2 + 12y + 14 $$$$ = 6(x^2+2xy) + 9y^2 + 12y + 14 $$$$ = 6{(x+y)^2 – y^2} + 9y^2 + 12y + 14 $$$$ = 6(x+y)^2 + 3y^2 + 12y + 14 $$$$ = 6(x+y)^2 + 3(y+2)^2 – 12 + 14 $$$$ = 6(x+y)^2 + 3(y+2)^2 + 2 $$よって、$|x\vec{\mathrm{OP}}+y\vec{\mathrm{OQ}}+\vec{\mathrm{OR}}|^2$ は $x+y=0$ かつ $y+2=0$ すなわち $x=2, \ y=-2$ のとき最小値 $2$ をとる。
$|x\vec{\mathrm{OP}}+y\vec{\mathrm{OQ}}+\vec{\mathrm{OR}}| \geqq 0$ であるから、このとき $|x\vec{\mathrm{OP}}+y\vec{\mathrm{OQ}}+\vec{\mathrm{OR}}|$ も最小で、その最小値は $\sqrt{2}$
したがって
$$x=2, \ y=-2 \text{のとき最小値} \sqrt{2} $$# まとめ
今回の問題のポイントは以下の通りです。
- ベクトルの大きさの最小値を求めるときは、まず大きさを2乗して計算します。
- 成分計算は煩雑になりがちなので、展開公式を工夫して使うなどして、計算ミスを防ぎましょう。
- 2変数の2次式の最小値は、一方の文字について整理して平方完成し、その後もう一方の文字についても平方完成を行うことで求められます。
- 最終的な答えは、2乗する前の値(ルートをつけた値)であることを忘れないようにしましょう。
- 【解き直しのすすめ】
解説を読んで、「なるほど、そうやって計算するのか」と理解できたでしょうか?
プロの講師として、多くの生徒さんを見てきましたが、この手の問題は「解説を聞けばわかるけれど、自分でやると計算が合わない」というケースが非常に多いです。特に、3つの項の2乗の展開や、2変数の平方完成は、計算力が問われる部分です。
「見て理解すること(インプット)」と「自分の手で最後まで計算しきること(アウトプット)」は全く別物です。わかったつもりにならず、計算力を鍛えるためにも、ぜひ一度、解説を閉じて、何も見ずに自力で正解にたどり着くまで解き直してみることを強くお勧めします。
途中で計算が合わなくなったら、どこで間違えたのか、解説と自分の計算を見比べて、ミスの原因を突き止めましょう。その地道な作業が、確実な実力アップにつながりますよ。
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